秋のつぎは秋

 吐く吐息が白くなるのを意識し始めたのはついこないだのことのように思える。もう12月で、今年も残すところあと一月となった。
「寒いー」
「もう冬だね」
 閑静な住宅街の一角、水瀬家のベランダに人影が二つ。祐一と名雪。頭上には星空。
 ふたりはごく自然に寄り添い合った。気温が低い夜は、そんな行為が一段と愛しく感じられる。
「こないだ雪も降ったしな」
「積もらなかったけどね」
「積もってほしくないなー」
 名雪の肩を抱きながら祐一は冗談めかして言う。
「ただでさえ寒いのに目の前が銀世界だと、余計寒くなるんだよな。こう、視覚的にっつーか」
 自分でも何を言ってるのか解らなくなった。
「……だよね」
 ふと名雪が口を開く。普段のイメージとは離れた、儚げな雰囲気。
「…だよな。名雪にもやっと俺のイカした感性が解るようになってきたか」
 一瞬の間は、その雰囲気に戸惑いを覚えたから。
 この場は茶化さないといけないと判断したから。祐一は。
 イカしたは死語だとか、そんな陳腐なツッコミを欲していた自分に気付く。
「夏が来て、ずーっとそのままだったらいいのに」
 なんだか凄く魅力的な言葉に聞こえる。名雪が同意したのは祐一のイカした感性ではなくて積もってほしくないという言葉だったということに今更気付く。
「ううん、そんな贅沢なことはいわないから。秋が来てもいいから」
 名雪は祐一の胸に頭をもたれさせて。
「ずっと今のままでいられるならわたし、雪なんてもう見られなくてもいいよ」
 そのまま、目を閉じた。
 冷えた風がひとつ頬を撫でていく。名雪お気に入りの苺のシャンプーの香りが、今日は祐一の肺をひどく掻き乱した。
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 超短編部門に投稿しようとして はじめてサイズ制限の重さを知ったあの日(自由律)
 今で書いた2つのこんぺ短編SSはどちらも10kb以下のTOTOです。1kbになんてボク纏められない。締め切りは明日。