『NHKにようこそ!』滝本竜彦

NHKにようこそ!
 ひきこもりの主人公と不思議ちゃんのボーイ・ミーツ・ガール。
 エロスとドラッグとバイオレンスに溢れてたり溢れてなかったりするヒッキーライフや某アニメーション学院に通う隣人であり高校の後輩である山崎君の描写が強烈でリアリティがあるのかないのかといった感じですが、そっち系の人は割と気まずい思いをしながらページをめくれるかもしれません。私的には山崎君の「この直訳調の文体が最高ですよね」という台詞に愕然とし、戦慄しました。俺はこいつと同じ感性なのか。
 だけど奇天烈な設定とは裏腹に、お話自体は割と純粋な青春小説です。しかも傑作。自虐的な笑いに溢れた勢いのある文章で描かれるろくでもない被害妄想に溢れた青春。見えない敵に傷つき、敵が見えない現状に苛立ち、どうしようもないどうしようもないと墜ちていく様子はまさにダメダメで、そのダメっぷりが極まったラストの展開には恥ずかしながら少し涙ぐんでしまいました。やってることがダメすぎて、でもそれをあまり人事だと思うことができず、いろいろな意味で泣けた。でもその後にはさらにその展開をもひっくり返すオチが待っていて、読後感はけして悪くない、むしろ爽やかといってもいいものでした。ま、もう少し生きてみるか、とか。そんな感じ。
 ヒロインがいかにもな設定なのはまあご愛敬というか。都合のいいキャラが存在しない小説なんて滅多にないよ。多分。